岸田さん、金融所得課税の引き上げを検討
岸田さん、金融所得課税の引き上げを検討
先月末に行われた新総裁選で、岸田文雄氏が金融所得課税を見直し、一律20%の税率を引き上げる考えを示したことが報じられると、SNS上では失望や怒りの声を多く目にしました。この報道だけが原因ではありませんが、その後日本の株式市場が下落傾向にあることも投資家の印象を悪化させたのでしょう。また日本では2003年から「貯蓄から投資へ」という標語が掲げられ、個人の努力で老後の蓄えをしていくよう投資人口が広がるような動きがありますが、結果この動きへ逆行した施策となるとの意見も見受けられるようです。
そもそも金融所得課税とはなんでしょうか?
●金融所得課税とは
所得税という言葉は耳にしたことがあると思いますが、金融所得課税は聞いたことがないという人もいるでしょう。所得税は会社から貰った給料にかかってくる税金で、所得が増えるほど税負担が重くなる累進性があることは多くの人の知るところです。たとえば、年間の課税所得が195万円未満だと税率は5%ですが、4000万円以上だとその税率は55%になります。 一方で、労働から得た所得ではなく、利子や配当として得た所得や、株式などの取引で生じた利益(株式等譲渡益やキャピタルゲインといいます)は金融所得と言いますが、これらの金融所得は分離課税の対象で、その人が給料をどれだけもらっているかには関わらず、一律20.315%(復興特別所得税を含む)がかかります。 冒頭で触れた岸田氏の発言が意味することは、この税率を引き上げていくということで、具体的な数字は出ていませんが、25%や30%に引き上げられてしまうかもしれない懸念が個人投資家の間で広がったのです。
経済格差の拡大に歯止めがかからないため、再配分を目的に税率を引き上げるとのことですが、果たして金融所得税率の引き上げは格差の是正を実現できるのでしょうか?
●格差の是正が出来るのか?
財務省によれば、2019年時点の所得が5000万円から1億円の所得層だと所得税負担率が27.9%であるのに対して、20億円から50億円の所得層では負担率が18.9%に下がるとしています。これを「1億の壁」と言ったりもしますが、この歪な状態を改善したいが故に金融所得税の税率引き上げを提唱したのですが、本当にそれだけで格差が是正されるのかは疑問です。 先ほどからあるように「貯蓄から投資へ」という標語が掲げられ、投資人口が広がるように様々な変化が生じてきました。NISAやiDeCoなどの非課税制度が整備されたり、証券会社や運用会社の企業努力もあって投資にかかる手数料は一昔に比べればとても安くなりました。また、SNSやブログ、YouTubeなどで個人投資家自身が「つみたて投資」など敷居の低い投資法を啓蒙していることもあり、着実に個人投資家の数は増えています。 仮に金融所得税の税率が引き上げられた場合、当然ながらこの数年で投資を始めた個人投資家にも影響はあり、いわゆる富裕層ではなく、余剰資金の一部をコツコツとがんばって投資しているような小口の個人投資家の税負担も高まり、本当の富裕層は租税回避してそれほど影響を受けないことも想定されます。 格差是正といって金融所得税の税率引き上げを唱えていますが、投資家はお金を失うリスクを取って投資行動をしておりますし、なかには時間や労力をかけて分析して勝率をあげるための努力をしている人達もいるので、本気で格差是正を目指すのであれば単純に金融所得税の税率引き上げをすればいいという結論にはならないのではないでしょうか。
営業課、中原